美しく、そして、残酷。都市崩壊の極限を描く。
CLAMPの原作COMIC「X」は、何かテロ的な要素があるとかで、中断されたままだが、その途中までのCOMICを原作に、りんたろう監督が結末までつけてアニメ映画化した作品が、「X」(1996年公開)だ。案の定、脚本が弱い。
しかし、その一方で、これは同監督のアニメ映画「幻魔大戦」(1983年公開)のリベンジである。「幻魔大戦」は東京の他、ニューヨークの場面があり、キャラクターデザインは大友克洋でかなりクセがあり、作画はまあまあ、背景美術は上手い。一方、「X」の舞台は東京から動かないが、キャラクターデザイン及び作画監督は結城信輝であり、主要登場人物は男女ともにかなりの美形ぞろいで、作画は超絶的に上手く、美術監督は平田秀一であり、背景美術も超絶的に美しい。そして残酷なシーンは美しくかつ残酷だ。特に絶対悪(サイコパス?)と化す封真がハンサムで、その犠牲者の1人となる妹の小鳥がはかなげな美少女だ。そして、りんたろう監督の特技の一つである、撮影が上手い。
とにかく東京のいつもの風景の、写真のような背景画がすごい。色彩設計担当が、この美術監督に、あまり背景画を描き込みすぎると、人物の絵が浮き上がってしまうので、背景画を描き込みすぎるな、と注文を出したのに、ものすごいレヴェルで背景画を描き込んでいる。ほとんど写真レヴェルだ。
そこで、人物が浮き上がらないように、撮影時に何かフォルターをかけて撮影したようだが、画面は粗くもなく、人物が浮き上がってもいない。CGでガラスの地球(回転している)を表現しているのも、お見事。
こういう、写真のようにとことん描き込んだ背景画の世界で、動きの滑らかな美男・美女な登場人物が、サイキック戦争を行うことで、結界が崩壊、つまりは、都市が次々と崩壊していく。この作画がものすごい。「幻魔大戦」では背景画をただ上下に動かして大地震を表現していた(といっても、ものすごい上下動で、普通に撮影したら機材が壊れると思うので、かなり工夫して撮影しているはずだ)が、ここでは、念入りに、じっくりと、工夫して、都市を壊滅させていく、その作画力がものすごい。
りんたろう監督の弱点である脚本の弱さや、内容がテロじみている、という欠点はあるにせよ、この作画力と美術力による都市崩壊の数々のシーンは見事であるとしか言いようがない。どうしてもBDで見たくなるが、BDどころか、以前は販売されていたDVDすら今は販売されていない。
そして、音。妹・小鳥が夢の世界へ吸い込まれたときに、履いていたサンダルの片方が地面に残っていた。それを見つけて拾い上げた兄・封真が、「それはあなた次第よ」と言ってきた美女に股間を押し付けられ、サンダルを落としてしまう。サンダルが地面に落ちた瞬間、なんというか、表現しがたい不思議な音がして、サンダルが跳ね上がり、地面に散っていた桜の花びらが少し舞う。ここがスローモーション撮影になる。もう見事としか言いようがない。
これ、夢の世界というか、夢の次元へ小鳥が落ちてしまうのだが、この夢の中の表現がまた素晴らしい。長い髪が四方にうねる。夢の中でハンサムな封真に、美少女の小鳥が追いかけられるところ(追いつかれれば殺される)に桜の花びらが散り、夢世界は画面が明滅する。
そして、これは桜の話でもある。全編が桜だらけだ。つまり、美しく咲いて、美しく散る。その両方が美であるという意味であり、この映画の内容を象徴している。だって、天の龍7人、地の龍7人のうち、生き残るのは1人だけなのだから。それで、残りの大多数の人類はどうなるかというと、東京のことしかわからないのだが、東京にいる人間が逃げまどっている(昼間なのに空は真っ暗)絵柄があるので、相当の人間が、死んでいるのだろう。なぜか、東京のすべての結界を破壊すると、地球が滅びると言う、相当な脚本なので、海外にも異変は起きている可能性もあるが、その描写も台詞も一切ないので、海外の状況は不明だ。
ただ、劇場アニメ「銀河鉄道999」(1979年公開),「さよなら銀河鉄道999」(1981年公開),「幻魔大戦」で追求してきた、りんたろう監督の、都市崩壊、文明崩壊シーンは、この「X」である意味、極限に達したと思う。これら3作品はすべてBD化されているのだから、「X」も是非、BD化してほしいものだ。「X」は、VHSビデオの方が、作画に粘りがあった。それが、DVDでは、粘りが消えている、もしくは薄くなってしまっている。だから、上手くBD化してくれないかなぁと思うのだよね。
現在のアニメ映画って、ジブリや新海誠のように、背景画をとことん写真のようにきれいに描き込むのが主流だが、それを始めて行ったのがりんたろう監督の「幻魔大戦」だった。でも、それは、萌芽であり、「X」でさらに進化している。「X」はダークな場面や絵柄が多いが、とにかく作画、美術の腕が良すぎる。日本のアニメ史を語るうえで、「X」は欠かすことはできない。
あと、音楽。BGMは効果音のような、音楽だと言われれば音楽のような、何かはっきりしない音楽だが、主題歌は超有名ですよ。X JAPAN「FOREVER LOVE」ですからね。この映画の最後に、この主題歌が流れ始める場面の絵柄も、ものすごい。自分はDVDを持っているが、何度見ても感動する(って言っていいのかな?)。
あ、そうそう、こういう風に「感動するんだけど、感動するって言っていいのかな? 例えば友人に「このアニメ感動するよ」って言っていいのかな?」と躊躇するのよ、この作品は。R指定とか出てくる前の時代かどうか、R指定はないと思うが、お子様にはショックが大きいと思う。サラリーマン時代の自分も、この作品を最初にVHSビデオで見たときは、絵柄の美しさと、その残酷さに驚いた。
でも、この作品、長さが90分ぐらいしかなくて、それは、お子様が集中して観られる時間が90分ぐらいだからと言うのね。だからこそ脚本が弱くなったと思うのだが、仕上がりを見ると、とてもとても、お子様に見せられるような作品ではない。だったらもう少し時間を長くして、脚本を充実してもらいたかったなぁ。そういう意味では、90分という限定された時間内で、ここまで見事に描き切ってしまうのは、やはり、りんたろう監督の手腕は並大抵のものではないとわかる。そして、無駄がない、と言えば、確かに無駄がない作品に仕上がっている。
「銀河鉄道999」、「さよなら銀河鉄道999」でりんたろう監督は、終盤を盛り上げるために、罪のない人間達を皆殺しにする、ある意味、力業の演出をしているが、「X」ではその演出方法が美しく、かつ、残酷な方向に向かっている。それは、トータルして「美」である、と言われれば、ある意味、究極の「美」であるのだろう。桜は散り際が美しいとも言うからね。


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